生活習慣の指導とともに、便秘治療に重要な「下剤」。
下剤と聞くと「その時の排便だけをよくする」と思われている方もいますが、排便環境を整える、便を出しやすい体質にする上でも、便秘の方にとって下剤は大切な役割を担っています。
今回は、代表的な下剤と働きについて概説した後に、下剤(便秘治療薬)にまつわる素朴な疑問について、お話していきます。
便秘治療薬(下剤)の種類と働き
「なるべく薬に頼りたくない」という方の気持ちもよくわかりますが、便秘治療薬は生活習慣の改善と同じくらい大切な治療方法の1つです。生活習慣の改善をためしてみても便秘症状が続く場合には、便秘治療薬を内服することで症状を改善することができます。
便秘治療薬には沢山の種類があり、年齢や性別、症状や持病によって人それぞれ適した薬が異なりますので、便秘でお悩みの方は是非ご相談ください。
便秘治療薬の種類としては、例えば以下のようなものがあります。
1.プロバイオティクス
プロバイオティクスは、慢性便秘症に対して腹部症状を悪化させることなく、排便回数を増加させることが期待できる薬のひとつです。
代表的なプロバイオティクスとしては、ビフィズス菌、乳酸菌、酪酸菌などがあり、中には複数の菌が配合された薬もあります。プロバイオティクスの代表的な製剤としては以下の通りです。
- ビフィズス菌整腸剤(ビオフェルミン®)
- 酪酸菌製剤(ミヤBM®)
- 酪酸菌配合剤(ビオスリー®):
乳酸菌・酪酸菌・糖化菌が配合されています
2.浸透圧性下剤
浸透圧性下剤とは、腸内で水分泌を引き起こすことで便を軟らかくして、便秘を解消させる薬です。便秘治療薬の中でもキードラッグに位置づけられます。浸透圧性下剤の代表的な製剤としては以下の通りです。
- 酸化マグネシウム(マグミット®):
腎臓の機能が悪い方の場合,高マグネシウム血症を引き起こす可能性があるため、定期的なマグネシウム濃度の測定が必要です。 - ポリエチレングリコール(モビコール®):
もともとは消化管洗浄液として使用されておりましたが、日本でも慢性便秘に対する保険適応が通りました。2歳以上の小児にも使用できます。
3.刺激性下剤
大腸の収縮を促進し、蠕動を促すことで排便させる薬です。刺激性下剤は長期的な使用により耐性が出現し、効果が減弱して難治性便秘になることがあるため注意が必要になります。そのため浸透圧下剤を基本に、便秘の時だけ頓服で内服するのがおすすめです。例えば、刺激性下剤の代表的な製剤としては以下のものがあります。
- センナ(アローゼン®):
漢方薬の生薬の一つである大黄にもセンナが含まれています。 - センノシド(プルゼニド®)
- ピコスルファートナトリウム(ラキソベロン®,シンラック®)
4. 粘膜上皮機能変容薬
粘膜上皮機能変容薬は小腸の粘膜上皮の機能を変容させることで小腸の水分分泌を増加させ、便秘の症状を改善させます。例えば、粘膜上皮機能変容薬の代表的な薬剤として、以下があげられます。
- ルビプロストン(アミティーザ®)
- リナクロチド(リンゼス®)
- エロビキシバット(グーフィス®)
5.漢方薬
漢方薬には様々な生薬が異なる割合で配合されています。代表的な生薬としては、便を軟らかくする働きがある芒硝、腸管の蠕動を亢進させる大黄があります。また麻子仁には脂肪油が含まれており、便の流れをスムーズにします。芍薬や甘草には筋の収縮を和らげる働きがあり、便秘でお腹がはった時の痛みやしぶり腹などに効果があります。慢性便秘に対して処方される代表的な漢方薬をあげると、以下の通りとなります。
- 大黄甘草湯:
文字通り大黄と甘草が含まれます。大黄の量が多いのが特徴です。 - 調胃承気湯:
大黄と甘草に加え芒硝も含まれます。 - 桃核承気湯:
調胃承気湯に加えて経皮や桃仁という生薬が加わり、血の滞りを解消する働きがあるとされます。 - 麻子仁丸:
大黄や麻子仁、芍薬が含まれます。 - 潤腸湯:
大黄や麻子仁、甘草が少量ずつ含まれます。 - 桂枝加芍薬大黄湯
6.坐薬・浣腸液
直腸まで便塊が到達しているにも関わらず、力むことが出来ず排便できない方には非常に有用です。代表的な坐薬・浣腸液の製剤は以下の通りです。
- 炭酸水素ナトリウム・無水リン酸二水素ナトリウム配合薬(新レシカルボン®)
- ピコサジル(テレミンソフト®)
- グリセリン浣腸
(参考:慢性便秘症診療ガイドライン2017)
(参考:日本大腸肛門病会誌 72:600-608,2019「慢性便秘症の治療 各論(新規薬剤について」)
(参考:IRYOVol. 75 No. 1(4-8)2021「慢性便秘の薬物治療」)